医療コラム

みんなで食べる幸せを - 栄養の基礎を知る -

管理栄養士 中居有紀

 日本では、10月1日―31日を「世界食料デー月間」とされ、国際的にも様々なイベントが行われています。開発途上国で十分に食べられない人が増え続け、世界の飢餓・低栄養人口は、2009年には史上最高になったと予測されています。「世界食料デー(10/16)」は、この日をきっかけにして自分自身の生活を見直して、世界の人々が共に生きる生き方を実践しようとする人が増えるようにとの願いが込められて、制定されました。
 暴飲暴食や、無駄な食の消費に心当たりはありませんか?

 無駄な食の消費が少しでも減るため、食や栄養の基礎知識が大切です。
 今回は、栄養の『基礎』である三大栄養素についてです。

 三大栄養素は、炭水化物・タンパク質・脂質のことを言います。人体に必要な数十種類の栄養素のうちでも、特に摂取量が多く、エネルギー源として活動を支えています。


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■ 炭水化物 1g:4kcal
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●多く含まれる食品
 炭水化物は、主食であるご飯やパン類、めん類、イモ類などに多く含まれる栄養素。消化・吸収されて、体内で1gあたり4kcalのエネルギーになります。「脳には甘いものを」といわれることがありますが、特に脳では糖質(ブドウ糖)しかエネルギー源として利用できないため、このようにいわれています。

●炭水化物の働き
 炭水化物は主要なエネルギー源として働き、エネルギー源となる糖質と、人間の消化酵素では消化されない繊維とがあります。余分に摂取すると脂肪となって体内に蓄積して、これが肥満とつながってしまうため注意しましょう。繊維には、腸内環境を整えたり、コレステロールを排泄させるなどの様々な働きがあります。

●必要な量は?
必要エネルギー量の50―70%分のエネルギーに相当する量
⇒例)1日の必要エネルギー量が2,000kcalである人の場合
    (60%を炭水化物とすると…)
     2000×0.6=1,200kcal分(ご飯:茶わんに約5杯分程度)

*「糖類」と「糖質」と「炭水化物」の表現の違い
「糖質」や「糖類」、「炭水化物」の表現は混同されることが多くありますが、栄養表示される際は、「炭水化物」は、「糖質」と「食物繊維」の合計で表されています。

また「糖類」は、単糖類と二糖類の総称、表示される際は合計値となります。


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■ タンパク質 1g:4kcal
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●多く含まれる食品
 タンパク質は、魚介類、大豆および大豆製品(大豆、納豆、とうふなど)、肉類(牛、豚、鶏、など)、卵類などに多く含まれる栄養素。タンパク質も炭水化物同様に、消化・吸収されて、体内で1gあたり4kcalのエネルギーになります。

●タンパク質の働き
 タンパク質は、体重の約1/5を占め、筋肉、臓器、皮膚、髪、血液、ホルモンなどをつくる役割を果たしています。また酵素など体内で必要な成分の材料として、その場所に応じて形を変えて働いたり、肌の弾力の素となったり、さらには免疫物質としても働き、病気への抵抗力をつけるために大切な役割を果たしています。


●必要な量は?
タンパク質の量は、以下の式から求められます。
 式: 推奨量(g/日)=0.65÷0.9×基準体重×1.25
               ≒0.9×基準体重(kg)            「日本人の食事摂取基準」(2010年版)参照

※ 基準体重の求め方
  基準体重 = 身長(m)×身長(m)×22

例)身長160cmの場合 
  基準体重(kg)= 1.6(m)×1.6(m)×22 = 56.3 (kg)
  タンパク質推奨量(g/日)= 0.9×56.3 ≒ 51 (g/日)


 タンパク質は、不足すると筋肉や体力が低下し、感染に対する免疫力が弱まったり、回復が遅くなったりします。鉄分がうまく体で使われないために、貧血を起こしやすくなることもあります。逆にたんぱく質を摂り過ぎた場合は、肥満や痛風などといった、様々な病態の引き金となることもありえます。上記の式を参考に、適正量の摂取となるよう心がけましょう。(詳細な量等に関しては、栄養指導にてご説明いたします。お気軽にお声かけください。)


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■ 脂質 1g:9kcal
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●多く含まれる食品
 脂質は、肉類(特にばら、サーロイン、リブロースなどの部位が多い)や魚の内臓、卵や乳製品などに多く含まれる栄養素。料理としては、これらの食品を使ったピザやオムライスなどの他、ご存知のようにフライや天ぷらなどの揚げ物などにも多く含まれています。
 ただし脂質には種類があります。飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸、コレステロールなど、構造の違いによって分類され、それぞれの働きも異なります。動脈硬化の場合やLDL‐コレステロールが高い場合は、脂質は、不飽和脂肪酸を含むオリーブオイル、またイワシ、サバ、秋刀魚、鮭などの魚類から摂取するのが良いと考えられています。
 脂質は3大栄養素の中でも最もエネルギーが多く、体内で1gあたり9kcalのエネルギーになります。

●脂質の働き
 脂質は細胞膜の主要な構成成分で、またエネルギー産生の主要な基質となります。脂溶性ビタミン(A、D、E、K)やカロテノイドの吸収を助け、肝臓において胆汁酸に変換されたり、性ホルモン、副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモン、ビタミンD の前駆体となるなどの働きがあります。

●適正量は?
 エネルギー比率として、20―25%とされています。
⇒ 例)1日の必要エネルギー量が2,000kcalである人の場合
     2000kcal×0.2=400kcal(植物油:大さじ約4杯分程度)。

※必要エネルギー量や脂質の適正摂取量は、個人の運動量や病態によっても個人差があります。過剰摂取は、動脈硬化や様々な生活習慣病の原因となります。病態に沿った具体的な内容については、栄養指導にてお尋ねください。
 

 栄養の基礎を学ぶ機会は意外と少ないものですが、これを知らずにダイエットや食事コントロールを行うことは効率も悪く、また危険とも考えられます。
 改めて栄養の基礎を知り、食べきれる量だけ買って食べ残しをしない、できるだけ地元の食材を選ぶなど、出来ることから「食」事情の改善に取り組みたいものです。

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  2010/10/20   澤渡循環器クリニック